「なぜコルビジェの丸眼鏡は世界を変えたのか」—建築家のセルフブランディング戦略

「なぜコルビジェの丸眼鏡は世界を変えたのか」—建築家のセルフブランディング戦略

顔の一部となった黒いフレーム

ル・コルビュジエといえば、誰もが真っ先に思い浮かべるのが、あの特徴的な黒い太縁の丸眼鏡でしょう。彼が愛用し続けたこの眼鏡は、単なる視力矯正のための道具を超えて、彼のアイデンティティそのものとなりました。

当初、彼は一般的な金縁や鼈甲(べっこう)の眼鏡を掛けていましたが、ある時期からパリの眼鏡店「ボネ(Bonnet)」で特注した、分厚いプラスチックフレームの丸眼鏡を愛用するようになりました。この眼鏡は視界を広く確保する「機能性」と、顔の印象を強烈に決定づける「記号性」を兼ね備えていました。彼以前の建築家たちの肖像写真を見ると、髭を蓄えた厳格な紳士といった風貌が一般的でしたが、コルビジェは髭を剃り、髪を撫で付け、このモダンな眼鏡を掛けることで、「過去と決別した新しい建築家」の像を自ら作り上げたのです。

建築家という職能の「見せ方」革命

彼はメディアの力を誰よりも早く、そして深く理解していた建築家でした。雑誌『レスプリ・ヌーヴォー』を創刊し、著書を通じて自身の思想を世界中に広める際、彼は常にこの眼鏡を掛けた自身の写真を掲載しました。

これにより、「コルビジェ=丸眼鏡=前衛的な建築家」という図式が世界中の学生や建築家の脳裏に刷り込まれました。これは現代で言うところの「パーソナルブランディング」の先駆けです。建築家が自らをブランド化し、作品だけでなく「自分自身」をビジュアルアイコンとして流通させるという手法は、当時としては極めて革新的なものでした。彼の戦略は、アンディ・ウォーホルやカール・ラガーフェルドといった後のアーティストたちにも通じる、「顔自体をアートにする」試みだったと言えます。

スティーブ・ジョブズとの共通点

コルビジェの丸眼鏡戦略は、アップルの創業者スティーブ・ジョブズの黒いタートルネックとデニムに通じるものがあります。ジョブズもまた、イッセイミヤケのタートルネックを制服のように毎日着ることで、日々の決断エネルギーを節約すると同時に、自身のアイコン化を徹底しました。

二人に共通するのは、複雑なものを極限まで削ぎ落とすミニマリズムの哲学です。それを製品や建築だけでなく、自分自身のスタイルにも適用しました。彼らにとって、外見の一貫性は「私はブレない」という内面の宣言であり、世界に対する強力なマニフェストだったのです。コルビジェの丸眼鏡は、ジョブズのタートルネックと同じく、20世紀を代表する「天才のユニフォーム」として歴史に刻まれています。

「ル・コルビュジエ」というペルソナ(仮面)

本名シャルル=エドゥアール_ジャンヌレから「ル・コルビュジエ」へと改名したことも、彼のブランディング戦略の核心です。スイスの時計職人の家系に生まれた内気な青年から、パリで世界を相手に戦う前衛闘士へ。彼は名前を変え、丸眼鏡という「仮面(マスク)」を被ることで、別の人格を演じていたのかもしれません。

このペルソナを通じて、彼はより大胆に、より過激に、新しい建築の理想を語ることができました。丸眼鏡は、彼が本来の繊細な自分を守り、同時に攻撃的な革命家としての顔を見せるための、心理的なプロテクターの役割も果たしていたのです。「私は二人の人間を生きている」。彼がそう語ったように、丸眼鏡は公人コルビジェのスイッチでした。

ダブルのスーツと蝶ネクタイの美学

眼鏡だけでなく、彼のファッション全体にも計算された美学がありました。彼は常に仕立ての良いダブルのスーツを着用し、蝶ネクタイを締めていました。画家の時には作業着を着ていましたが、建築家としては常に「ビジネスマン」のような服装を貫きました。

これは「建築家は夢想家(アーティスト)ではなく、社会を構築する実務家である」という彼の主張の表れでもあります。工場の経営者や銀行家とも対等に渡り合うための、信頼と権威の演出です。眼鏡、スーツ、および蝶ネクタイ。この三点セットが生み出すシルエットは、彼の建築作品と同じくらい、機能的で、幾何学的で、そして一度見たら忘れられない強力なデザインだったのです。