健全な身体に健全な建築は宿る:コルビジェのスポーツ・肉体と運動への情熱

健全な身体に健全な建築は宿る:コルビジェのスポーツ・肉体と運動への情熱

モダニズムが提唱した「健全な肉体」という新しい価値観

ル・コルビジェが活躍した20世紀初頭、ヨーロッパでは都市の過密化と不衛生な労働環境によって病気が蔓延し、これに対する反省から「自然光を浴び、新鮮な空気を吸い、肉体を活発に動かして健康を取り戻す(ウェルビーイング)」というヘルスケア・アソシエーションが急速に台頭していました。コルビジェはこの新しい身体文化の熱烈な支持者であり、実践者でした。彼は「健全な身体にこそ、合理的で美しい建築が宿る。新しい時代の住まいは、住む人の肉体を健康に鍛え上げるためのアスレチックジムのようでなければならない」と主張しました。彼にとって、建築は単に雨風を凌ぐシェルターではなく、人間の身体をアクティブに活性化させるための「健康の増進装置」だったのです。

水泳を愛し、毎日の体操を欠かさなかったコルビジェのライフスタイル

コルビジェ自身の日常生活は、驚くほどストイックでスポーティでした。彼は毎朝アトリエで絵を描く前に、スウェーデン体操(自重を用いた機能的ストレッチ)を丁寧に行うことを日課にしていました。また、週末や休暇になると、海や湖で何キロメートルも泳ぐ「水泳」をこよなく愛しました。晩年、彼が南仏カップ・マルタンに建てた小さなカバノン(休暇小屋)を選んだ最大の理由も、目の前に広がる地中海の青い海で毎日思う存分泳ぐことができるからでした。彼が全裸で泳ぐ姿や、日焼けした引き締まった肉体で海岸を歩く写真が数多く残されていますが、これらは彼が自分の「健康的な身体」をモダニズムのアイコンの一部として誇っていた証拠でもあります。

ユニテ・ダビタシオンの屋上に作られた「空中スポーツトラックとプール」

彼が提唱した「アスリートとしての建築」が最も象徴的に実現したのが、巨大集合住宅「ユニテ・ダビタシオン(マルセイユ)」の屋上庭園です。コルビジェは、建物の屋上を単なる機械室や洗濯物干し場にするのではなく、住民が体を動かして健康になるための「空中アリーナ(スポーツ広場)」として開放しました。そこには、子供たちが泳ぐための「屋上プール」、大人たちがランニングを楽しめる一周300メートルの「ジョギング用トラック」、および体操用のクッションスペースが彫刻的なコンクリート造形で配置されました。空と海に近い屋上で、住民が日常的にジョギングや体操を楽しみ、自然と触れ合う。まさに「健康増進と建築の完璧なマリッジ(融合)」でした。

アテネ憲章が定めた都市の機能:「健康的な肉体運動のための空間確保」

コルビジェが主導した近代建築国際会議(CIAM)が1933年に採択した「アテネ憲章(都市計画の共通ルール)」においても、スポーツの重要性が強力に定義されました。この憲章の中で、彼は都市の機能として「居住」「労働」「交通」と並び、「余暇(レジャー・スポーツ)」を第4の柱として位置づけました。彼は、高層ビルを建てることで地上の面積を95%解放し、そこに市民がいつでもサッカーやテニスを楽しめる「緑豊かなスポーツ広場」を配置する都市計画を構想しました。市民全員が、仕事帰りにいつでも体を動かして汗を流し、健全な精神と健康的な肉体を維持できること。それこそが、彼の描いた近未来都市のユートピアの絶対条件だったのです。

現代のウェルビーイングやフィットネス住宅の先駆としてのコルビジェ思想

現代の高級マンションに完備されている住居専用の「フィットネスジム」や「プール」、あるいはウォーキングコースが整備された大規模ニュータウンやスマートシティの基本コンセプトは、すべてこのコルビジェの健康・スポーツ美学が源流となっています。私たちは、家の中で快適に過ごす「静的な安らぎ」を求めがちですが、コルビジェは「家とは、動き、鍛え、自然のエネルギーを肉体に取り入れるためのアクティブな場であるべきだ」と教えてくれます。朝の軽いストレッチ、自然光の入る窓辺での深呼吸など、巨匠が実践したシンプルな健康習慣を日常の住まいに取り入れることで、私たちはよりウェルビーイングで豊かなライフスタイルを実感できるでしょう。