建築の一部として設計された、ル・コルビジェの機能的照明
ル・コルビジェは、建築を「光の下で繰り広げられる、形づくられたボリュームの巧みで正確な、そして壮麗な戯れである」と定義しました。彼にとって光は、コンクリートの壁に命を吹き込み、空間の立体感を際立たせるための極めて重要な「建築建材」そのものでした。そのため、彼は建築プロジェクトを設計する際、室内に取り入れる自然光のコントロールだけでなく、夜間の空間を照らす「照明器具(ランプ)」のデザインにも強いこだわりを持っていました。コルビジェは、過度な装飾が施された当時のシャンデリアのようなランプを「空間を破壊するゴミ」として徹底的に排除し、自作の建物(ユニテやシャンディガールの官庁など)の現場のために、シンプルで工業的な機能美を追求した独自の照明器具を多数開発したのです。
ユニテ・ダビタシオンのために生まれた「アプライク・デ・マルセイユ」
コルビジェが設計した照明の中で、最も有名であり現代でも高く評価されているのが、壁付けの間接照明「アプライク・デ・マルセイユ(Applique de Marseille)」です。これは、1952年に完成したフランス・マルセイユの巨大集合住宅「ユニテ・ダビタシオン」の各住戸(アパルトマン)のためにデザインされました。アルミの板を曲げて作った大小の円錐(コーン)が背中合わせに合体したような極めてシンプルなフォルムをしており、上部からは天井に向けて広がる明るい「アップライト(アッパー光)」を放ち、下部からは手元や床面を優しく照らす「ダウンライト」を同時に放出する画期的な両方向照射構造を持っています。このシンプルな器具1台で、部屋全体に柔らかな光のグラデーションをもたらし、住む人の目を疲れさせない、機能的で温かい住空間の光を完成させました。
シャンディガルのダム用投光器がルーツの「プロジェクトゥール」
もう一つの代表的な名作照明が、無骨で力強い佇まいを持つ「プロジェクトゥール(Projecteur)」シリーズです。この照明は、1954年にインドの「シャンディガール計画」において、高等裁判所や州庁舎といった官庁建築の外部およびダムの夜間防犯用・作業用の「投光器(プロジェクター)」として設計されました。厳しい雨風や砂埃に耐える必要があったため、無塗装の堅牢なアルミニウム製の円筒形ボディに、極太のローレットネジ(固定用ボルト)、および光を優しく拡散させるためのサンドブラストガラス(曲面ガラス)が組み合わされています。産業用のインダストリアルギアそのもののディテールが、驚くほどモダンで力強い彫刻的造形美を醸し出し、現在ではテーブルランプやペンダントランプとして復刻されています。
無塗装アルミニウムとスチールが放つ、インダストリアルな造形美
コルビジェの照明デザインに共通する最大の特徴は、「無塗装のアルミニウム」や「マットスチール」といった、加飾を施さないインダストリアル(工業的)な素材の純粋さにあります。彼は、金属の表面をピカピカに磨き上げたり、ゴールドでメッキしたりするような虚飾を嫌い、素材本来の冷ややかな質感や、型鋳造時の微細なざらつき(テクスチャー)をあえてそのまま活かしました。また、ボルトの頭やヒンジといった可動部のパーツをあえて隠さずに露出させることで、ランプが「光を放つための精密な機械」であることを堂々と表現しました。この無骨でありながらも完璧なプロポーションのバランスこそが、彼の照明器具を時代を超越したモダンデザインたらしめている真因です。
現代の間接照明として取り入れる、コルビジェ流の光の演出アイデア
現在、これらのル・コルビジェの照明コレクションは、イタリアの照明ブランドであるネモ(Nemo Lighting)社によって、現代のLED光源に対応する仕様でオフィシャルに復刻製造されており、世界中で購入が可能です。現代のインテリアにおいて、例えばコンクリート打ち放しの壁や、シンプルなグレーの壁面に「アプライク・デ・マルセイユ」を取り付け、上下に美しい光の円錐を描く間接照明として演出することで、一瞬にして知的でアートなホテルのような雰囲気を演出できます。また、書斎のデスクやリビングのサイドボードの上に「プロジェクトゥール」のテーブルランプを置くことで、インダストリアルな男っぽさと機能美が同居する、洗練された空間のアクセントとなるでしょう。